富士宮やきそば学会:渡辺英彦会長講演会

6年間で経済効果217億円という驚くべき実績をあげた「富士宮やきそば」
その成功のポイントは、「計算しつくされた【オヤジギャグ】」にあった!

■開催日時:2009年7月21日(火)17:00~19:00
■会場:JA三ヶ日ふれあいセンター2F会議室
●司会進行:中村事務局長
SM@Peは中小企業庁認定事業を推進しており、本日の講演はその事業の一環として開催。
●松嵜SM@Pe会長挨拶
SM@Peは、20代~30代の若者中心に、三ヶ日の良さを全国に発信することを目的として、農商工の垣根を外して組織化され、内外から注目を集めている。
SM@Peは、来る者拒まず、去る者追わず、というルールで推進しているので、気軽に参加していただきたい。
●農協代表:後藤専務理事挨拶
去年、渡辺会長の講演聞いた経験があり、再度聴く機会に恵まれ楽しみ。「町おこし」は地域活性化という観点でJAの活動と共通点がある。

渡辺会長講演内容

富士宮やきそば全国的には「富士宮やきそば」を知らない人も多いが、静岡県や東海地方では知名度高い。
ほぼ全国のコンビニでカップ麺の「富士宮やきそば」を販売しているが、生産は富士宮でなく、コンビニが独自生産工場で対応。
「富士宮やきそば」を冠したスナックもあり、名前を使われている。

「三ヶ日みかん」は「地域団体商標」だが、「富士宮やきそば」は、かなり前から一般の登録商標となっている。
それは、特許庁が「富士宮やきそば」をテレビ、新聞、インターネットなどで知名度が高いと判断したために認定された。
申請にあたり、マスコミで紹介された資料を意図的に特許庁に提出したことから認定された。つまり、「メディアに多く登場=認知」と判断されたことになる。
普段の会話の中で、地元に美味しいものがあると「来てみて食べてみれば分かる」言うことがあるが、知らない人には「ない」と同じこと。
それは、ジョージ・バークリーの言う、「存在することは知覚されることである」を裏付けている。
2000年を境に、以前は「富士宮やきそば」は知らない=「知覚していない」=存在していない、という状態であったが、2000年以後は「知覚されている」=「存在」となった。

具体的に数字で表すと、2000年以前には「富士宮やきそば」を目的に富士宮に来る人は0人だったが、現在は年間60万人が「富士宮やきそば」を目的に来ており、経済波及効果は217億円と公表されている。
そうした結果よりも、富士宮の場合、そうした結果にたどり着くまでに、あまり費用はかかっていないことが全国的にも珍しい。
行政予算=0、「やきそば学会」は市民の集まりで、「やきそば」業界とも違うの動きで進めてきたことも、まれな存在である。
お金をかけずに、地域ブランドを確立し、経済効果を生み出すことができた。

「それは何故か?」が今日の講演の主題である。
「ヤキソバイブル」=地域起こしのバイブルとされている渡辺会長の著書。今日の話を、もっと詳しく知りたければ、ぜひ購入を。

その書籍では、2000年以前を「旧焼聖書」、2000年以後を「新焼聖書」とし、キリストの誕生と「富士宮やきそば」の誕生をかけている。
2000年に市民の「勝手連」として、「グループ」ができ、やがて「やきそば学会」となり、その後、NPO法人化し収益事業を立ち上げた。
最近は、やきそばのアンテナショップも開店したり、株式会社として分社化し収益を発生させ、NPO法人に還元している。
これらのすべて事柄が、行政をからめず、勝手連の延長で自前で事業化を推進してきた。
3セク方式は多いが、行き詰まってしまう事例が多く、失敗が多い。

「富士宮やきそば」は、お金がないから「ソフト戦略」を充実させてきた。商品開発にもお金がかかるから、既存のものを発掘しようと思い、それが「富士宮やきそば」だった。
「富士宮やきそば」は、地元では昔から食べているが、全国的には珍しい「やきそば」だったので、これを商品と認定して「ソフト戦略」を進めた。
まず、やきそば調査活動を開始し、その調査グループを「やきそばG麺」と名づけた。「やきそば振興協議会」を作っても「面白くない」し「話題にならない」。「やきそば学会」、「やきそばG麺」だから注目される。

すなわち、「ソフト戦略」は、『「ことば」のもつ力を活用し「付加価値」を高める』ことである。
「付加価値」はネーミング、ストーリーが大切で、「コンセプトが正しい」や「うまいもの」であることは大前提で、必要条件であるが十分条件ではない。
それを「楽しい」「面白い」「怪しい」ものにする、すなわち、「感性価値」を高めることで世間・マスコミの注目 を集めるという「戦略」である。

他の代表例では、宮崎県の東国原知事が「マンゴー」「地鶏」をブランド化したが、そこでもマスコミにうけなければダメということが実証されている。
イベント開催という観点から、富士宮、横手市、太田市の3市がやきそばで町おこしを実施しているが、単純に食べ比べでは面白くないので、「三者麺談」とし「三国同麺協定」を結ぶことにした。各市長が「三国同麺協定書」にサインするからニュースになる、のである。
その結果、商品化の話があり、3市のカップやきそばがCVSから売り出されたが、「食べ比べ」で終わっていたら事業にならないし、地域ブランド浸透策として、「カップやきそばの商品開発プロジェクト」を立ち上げたら莫大な金がかかる。

福岡県小倉市は、「焼うどん」で町おこしを行ったが、全国ではじめて「焼うどん」を焼いたのが「小倉」だとアピールすることになり、「富士宮やきそば」に相談に来たので、「対決」イベントを画策した。
「巌流島」で「うどんVSやきそば」対決にしたらマスコミ受けすると考えたが、「巌流島」は小倉じゃないということで、小倉城400年記念イベントとし「天下分け麺の戦い」と名づけた。
「巌流島」のある下関市長に打診して「行事」役をうけてもらったり、小倉から富士宮に「果たし状」を出させ、それを受ける形をとり、マスコミが喜ぶ形にした。石川静岡県知事も巻き込み、「必勝」を掲げさせ、「静岡県VS福岡県」の対決というイベントに発展させた。

「富士宮やきそば」の出張販売ではニュースにならないが、伝道という名目で「MISSION麺POSSIBLE」とするとマスコミが飛びつく。ネーミングにより、「MI3」の公開時期に合致させ、マスコミ主導のイベントで、トム・クルーズ来日のイベントで、トム・クルーズに逢えるという懸賞企画にも発展した。
三ヶ日でも、SM@Peを組織した以上、SMAPと競演することを画策してみるべきではないか?
SMAPの中井くんが「富士宮やきそば」のインスタントを食って「うまい」と言って、一気に売上が上がったこともある。
芸能人に勝手に「親善大使」を任命し、「YAKISOBASSADOR(ヤキソバサダー)」と命名したら、ノリのいい芸人は、その気になってくれる。

それらを、すべて「タダ」でやってもらう。お金をはらうと却ってうまくいかないこともある。
「タダ」の事例として、アサヒビールのポスターに「富士宮やきそば」を組み合わせたものを作ってもらったが、「アサヒビールが動けばキリンビールも動く」ことになり、それがキッカケで、ご当地グルメとアルコール飲料の組み合わせは今では当たり前となった。
ネーミングとしては、B級グルメを普及させる団体として「愛Bリーグ」とし親近感アップさせた。今年5月のエコパのイベントは、正式な「B1グランプリ」ではないが、2日間で17万人動員しエコパ史上最高の動員数となり、国際イベントのワールドカップより動員が多かった。

とにかく「面白いこと」をやらなきゃダメ。
今では、富士宮に観光バスが来ると、必ず「富士宮やきそば」を食べるが、旅行会社に売り込んだ結果である。
「やきそバスツアー」というネーミングで、「麺税店」に「麺財符」をもって食べに行くという企画である。
「やきそば」は単価安いから、観光地と組み合わせても3,000円~4,000円でできるツアーとなり、東京の「はとバス」が企画として定期的に来るようになった。
ストーリーも仕立ててあり、「免罪符」で宗教改革が起きたこととひっかけ、「麺財符」で観光改革が起きた、としてマスコミに売り込むことが」できた。

「地域ブランド」と呼べるものは何か?
それは、商品、サービスにお金、人が集まってきて(=経済波及効果があるということ)、他の事柄にも波及し、かつ持続することが条件である、と考えている。
そうした他への波及の実例として、富士宮では「にじます」が日本一だったので、それをウリにして「にじます学会」を立ち上げた。
あえて「二番煎じ」を公言して、「柳の下にドジョウはいないがにじますがいた」という触れ込みで、「鱒(ます)コットガール」を仕立て人気者になった。
ある「鱒(ます)コットガール」の娘は、『鱒(ます)コットガールによる富士宮の町づくり』として卒論作成してくれたので、現在、学生向けに「富士宮を題材にした卒論」つくり支援として交通費を支給することにしたら、応募者もチラホラ。

「富士宮やきそば」の人気に乗っかって酒を作って、大吟醸をもじって「だいびんじょう」というのもある。

まとめ

まとめとして、重要なのは「消費者がモノを買う目線で考える」こと。
購買行動を起こさせる流れとして「AIDMAの法則」があるが、「Attention」させなければ次はあり得ないということを認識してほしい。
「うまいもの」の前に「うまい話」がなければ認知されないのであり、「ものづくり」ではなく「ものがたり」が大切である。

マスコミをうまく使うということは、どうパフォーマンスするかということで、『コンセプト=大真面目+パフォーマンス=大真面目』ではダメ。やはり、「楽しく」「面白く」「怪しく」することが重要。
マスコミが「ウチに先に書かせてくれ」と言わせるくらいまで、パフォーマンスを考える。一発屋の芸人ではすぐ消える。

SM@PeはSMAPをどうやったら超えられるか? というくらいまで考えてほしい。
三ヶ日は田舎なので、「田舎では誰かが目立つと足を引っ張り始める」ことにならないよう、周囲が盛り上げえほしい。「誰かが目だったらそれに乗っかる」気持ちで協力しあえば、うまく回り始める。

質疑応答

Q:マスコミの種類は?
テレビがもっとも効果的だが、トータルで考えることが必要で、パブリをしたがるが、マスコミ側のメリットも考えてあげられるかも大切。

Q:渡辺会長は真面目そうな方だが、「オヤジギャグ」の素質があったのでしょうか?
情報網を広げ、ネタは常に集めている、ところは芸人と同じ、読書もジャンルに囚われずに読むようにしている。
「1Q84」がなぜ売れるかを考えることが大切で、「1Q84効果」の検証のため、売れている本を読んでみることが時代を知ることになる。他の書籍では、「カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー)」、「蟹工船」が売れているので読んでみることも必要。

Q:「にじます」がパワーダウンしているのでは? 「やきそば」に比べれば期待外れにならないか?
「にじます」はダメでもともと、お金をかけていないから失敗しても元のままに戻るだけ。
また「富士宮やきそば」で培ったネットワークは十分に生かされてる。